大好きな伊坂さんの作品のアウトプット第一弾。
概要
2019年7月に発売した書き下ろし単行本。
今作の主人公はお菓子メーカーで働く一般サラリーマンで、部署を異動になったところから物語が始まります。
一社会人として働く主人公は時々見る奇妙な夢が何なのかが気になりながら生活を続けます。
しかし、他にも二人の男性も同じような夢を見ていることが判明したことから、物語が展開されていきます。
この奇妙な夢は現実とリンクしていて、夢で悪いことがあった場合は現実でも悪いことが起きてしまいます。
この夢の正体は何なのか?
何故他の二人の男性と夢を共有しているのか?
という謎を追い求めていくストーリーです。
読んだ感想
伊坂さんにしてはファンタジー要素が強い作品だと最初は思いました。
しかし、よく考えると
- 『終末のフール』の世界が滅ぶまであと数年という世界観
- 『死神』シリーズの死神の存在
- 『砂漠』の南の超能力
などのように、程度の差はあれどファンタジー系の要素を併せ持つ作品がこれまでも結構あります。
もっと細かく言うと、仙台を舞台にファンタジー要素を少し合わせた不思議な世界観が伊坂作品の特徴のひとつでもあります。
それにも関わらず、何故ファンタジー要素が強めだと思ったのか?を考えたのですが、主人公のサラリーマンとしての姿が非常に強く描写されていたからだと思います。
また、この本のテーマは「押し寄せてくる現実(作品内では世界的な危機)には毅然として立ち向かわないといけない」と私は受けとりました。
夢は結局夢でしかなく、夢の内容に振り回されて現実を蔑ろにしてはいけない。
とは言うものの、人々が見る夢を(今作では夢の中の世界も含めて)完全に否定しているわけではないところはいい落とし所だと思いました。
伊坂さんの作品は一歩前に踏み込む勇気をくれる作品や登場人物が多く、それが惹かれている理由のひとつなのですが、今作でもそれは健在でした。
未来予知?
この話はコロナ以前に発表されましたが、2020年から世界を震撼させた新型コロナウイルスを彷彿とさせる展開が後半にあります。
伊坂さんの後書きでは未来予知のようなことは明確に否定されていますが、読みながら「あれ?コロナ騒動中に書いた作品なの?」と思ってしまいました。
展開を変えることも少し視野に入れたようですが、本書のテーマとは関係がないところなので特に展開は修正しなかったようです。
伊坂さんの中ではウイルスが原因で世界の流れが止まってしまうことはファンタジーの範疇だったのかもしれません。
しかし、コロナ前の2019年に「1年後にウイルスの影響で自由に外出がしづらくなるよ」とか「通勤ラッシュの時間帯の山手線がガラガラになるよ」とか言われても、ファンタジーだと思ってしまいますよね。
まとめ
2019年に発売した作品『クジラアタマの王様』
この世界にも夢の中で必死に戦っている人がいるかもしれない。
そしてその人が勝利すればコロナ騒動も終息するかもしれない。
…と思わせてられるくらい、この作品は面白くのめり込みました。
伊坂さんの作品の中でもファンタジー要素が強く、サラリーマンの苦労するシーンもあることから大人向けの小説かもしれません。
ぜひ読んでみてください!